『天使の贈り物』 著:かなみ 熾烈を極めた英雄戦が終わり、束の間の平穏な時が流れていた。 「あ、シャノンちゃん。こんにちは」 白き衣を纏い七剣を操る英雄、ミソラも平穏の中に居た。 「ミソラさん…こんにちは」 ここは、王都アティルトの郊外にある田舎町。その中にあるミソラの家だ。 戦友であり、親友でもあるミソラのもとを訪ねたシャノンの顔は、平穏な時に似合わない暗いものだった。 「…どうしたんですか?」 そんな表情を見て、ミソラが心配そうに覗きこむ。 「いえ…その…」 いかにも"町娘"という風体のミソラを見て、シャノンがなんとも言えない表情になる。 「ミソラさんは…本当に、剣を置くんですか…?」 控えめに、だが、はっきりと口にする。 英雄戦におけるセフィド侵攻戦において、神聖王国の英雄クラウディア=マーキンスとの戦いで七剣を失ったミソラ。 戦いの後、彼女は剣を置いた。 別に、身体に異常をきたしたわけではない。 ただ、"やり遂げた"のである。 鉄壁を誇る神聖王国の守護神、騎士クリスの盾を貫くために払った代償は、七剣と己の技術の全て。 彼女の盾を貫く為ならば、それだけの物に自らの魂を込めてようやく届く程だった。 剣を持つ者にとって、己の技量全てを以って臨める相手に出会えるのは、正に本望と言えよう。 ミソラは、そんな相手に巡りあってしまったのだ。 そうして戦い抜き、最高の誉れと共に、剣を置いた。 そう。ミソラが剣を置いた理由はたったひとつ。 ただ、"やり遂げた"のである。 シャノンも、同じく剣を振るう者として理解しているつもりだった。 「はい…大きな戦はもう起こらないでしょうし…クリスさんとの戦いで、何か満たされた…と言いますか」 先の戦いに思いを馳せているのか、宙を眺めつつ、聖母を思わせるようなほほ笑みを浮かべた。 「まだ剣の道に、先があるのはわかってはいるんです。でも…故郷の町の復興も、大事な役目ですし…」 未だに剣を持つシャノンの気持ちを思いやってか、言葉を選びながら話すミソラ。 「いえ…別に、ミソラさんを責めたりする気はないんです。ただその…ミソラさんは、それでいいのかな、と想いまして…」 自分で言いつつ、内心笑ってしまった。 本心とは違う言葉がこうもスラスラと出てくるものなのだな、と。 単に、自分が寂しがっているだけではないか。そう思いつつも、本心を表に出す勇気は無かった。 「シャノンちゃんとは、少し違った道になっちゃったけど…向かう先は、一緒だと思うから」 そう言って席を立つミソラ。 「だから…そんな顔しないで。戦場ではもう横に立てないけど…気持ちは、いつも一緒だから」 優しく包み込むように、シャノンを抱擁する。 「…はい」 それに抗うこと無く身を任せる。 「これからは、オーラムの平和を…私のことを、シャノンちゃんが守ってね」 頭を撫でながら、さながら子供を諭すように、ゆっくりと優しく言葉を紡ぐ。 その暖かさに、自然と涙が出てきた。 「ミソラさん…」 「ほら…英雄さんなんだから、泣いちゃだめですよ」 頬を伝う涙を、指ですくう。 「シャノンちゃんはオーラムの英雄なんだから。皆の前で弱いとこ見せないようにしなくちゃ」 そう言って、少し強めに抱きしめる。 「でも…辛くなったら、いつでも来て下さいね…私で良ければ、いつでもこうやって、ぎゅ…ってしてあげますから」 「…はい」 切ないような、暖かいような。そんな心に染みるようなミソラの気持ちが、とても嬉しかった。 「…シャノンちゃん。ちょっと、目を閉じて」 「…?はい…」 言われるままに目を閉じる。 不意に、頭に何かを被せられた。 「…これは」 触れてみると、とても覚えのある感触だった。 「お守り…かなっ」 えへへ、と気恥ずかしそうに微笑むミソラ。 壁に掛かっていた鏡を見ると、頭には七剣使いの英雄の象徴とも言える、羽飾りのついた額冠があった。 「これで、気持ちだけじゃなくて、いつも一緒…ですっ」 その笑顔に、とても満たされたような気持ちになった。 「ミソラさん……はい、いつも一緒…です」 故に、シャノンも自然と笑みが零れた。 「あら、シャノンさんいらしてたんですのね」 「シャノンちゃん、こんにちは」 そこへ、フェンディとスワローが現れた。 「あ、お、お二人とも…こんにちは」 何故か妙に恥ずかしくて、慌ててミソラから離れるシャノン。 「ふふ…二人はいつもラブラブで羨ましいですの」 からかいつつも、どこか楽しそうに微笑むフェンディ。 「仲が良いのは良いことです」 二人を優しく見守るスワロー。 「はゎ…え、えへへ…」 「…あぅ」 そんな視線に、赤面するミソラとシャノンだった。 「あら…その額冠…」 ふと、シャノンの頭上に気づく。 「あ、はい…ミソラさんから頂きまして…」 「あら、そうなんですの…」 額冠を眺めて、やや考えこむフェンディ。 「どうしたんですか…?」 その横からスワローが表情を伺う。 「いえ…シャノンさん、"またいずれどこかで"お会いしましょう」 「?…はいっ」 どこか含みのあるようなフェンディの言葉だったが、あえて素直に頷くことにしたシャノンだった。 「それでは…今日はこの辺でお暇しようかと想います」 「シャノンちゃん、またね」 笑顔で見送るミソラ。 「…はい。"またいずれ"」 それに、シャノンも笑顔で応える。 時は巡り、オーラムとセフィドの定期戦。 「初の週末戦…頑張りま……あ、あの娘の翼冠は…?わたしと一緒…何故…?」 「ミソラさん…まさかこんな所で…いいえ、これは分かりきっていたこと…ここから先へは、行かせません!」 2つの天使の羽根が、巡り会った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― というわけで、3期ミソラからフェザーバンドを受け継ぐお話でした。 ほんの出来心から始めたネタ… 絵を合わせたりお話書いたり…こんなに苦労するとは思わなかった…w でも、これだけじゃなくって、もっと色々遊べたらいーにゃー。 ミソラちゃんで(何