戦乙女の軌跡 第二章『砂漠に舞う』 シャノン達が拠点としていたリボー城より、西へ半日ほど歩いた所にそれはあった。 「あれですね…」 砂漠と平野との境目。うっすらと緑の残る地にひっそりと佇む神殿。 「見張りが…2…3人居るわね」 狙撃銃のスコープを覗いて様子を伺っていたスワローが言う。 さすがに見張りくらいは立てているだろう事は予想していた。 「どうする?あの造りだと回りこんで…ってわけにもいかなそうだが」 シャノンの隣に立ちつつユーマが目を細めて神殿を見ていた。 言うとおり神殿は正面以外は背の高い外壁に囲まれていて、進入路は他に無さそうだった。 「変に小細工するよりも、正面から行きましょう。恐らく、それが最も効果的でしょうし」 相手は少なく見積もって20人。こちらは100人程度。多少増えた所で、戦力差は圧倒的だった。 「ただ、本番は神殿の内部に入った時ですね。通路の広さにもよりますが、そんなに動きやすいとも思えません」 「あたくしは中にはいらずに外を見はってますの。狭い所だと動きにくくて敵いませんし」 騎乗用ミソサの上でくつろぐフェンディ。 別にやる気が無いわけではなく、ただ事実を述べていた。 「そうですね。同じような理由で…」 全員を一度眺めてから言葉を続けた。 「フェンディさん、スワローさん、ルーンさんは外で退路の確保と見張りをお願いできますか」 「ええ」 「わかったわ」 「いいですよ」 「スワローさんとハカランダさんは、まず進撃の狼煙をお願いします。それを合図に、全軍突撃します」 剣を抜き天に掲げる。 「たかが盗賊と侮ること無く、身を引き締めていきましょう。これは、この地に住まう人たちを護る戦いです」 その激に武器を握り直す兵士たち。 「第一、第二部隊は突撃陣形を、第三部隊はスワローさん達の護衛を。…さぁ、準備は宜しいですか?」 隊列が整い、スワローとハカランダがライフルを構えた所で、神殿の方へ向き直る。 「全軍…」 次の瞬間、2門の銃口が火を吹いた。 「突撃っ!!」 勢い良く振り下ろされる剣と共に、進撃が開始された。 「お、お、おかしらぁっ!!」 神殿内部。やや広めの部屋に子分が駆け込んできた。 「て、てぇへんでさぁ!どっかの部隊が攻めてきやした!!」 全力で駆けてきたのだろう、息も切れ切れにまくしたてる。 「ぁんだとお?!今それどころじゃねーってのに…!」 アジトに居るというのに、その目は殺気立っていた。 「まだ片付かねぇのか!!」 「へ、へいっ…それが、相当の手練のようで…」 「たった一人に何を手間取ってやがる!くそっ、俺が行く!」 横に置いてあった剣を手に、立ち上がる頭目。 「おめぇらついてこいっ!!」 「へいっ!」 突撃は、驚くほどにあっさり進んだ。 見張りを狙撃で倒し神殿に肉薄したものの、迎撃に出てくるでもなく正面を抜けてしまった。 「…逃げたのでしょうか」 「神殿の中から人の気配がしますから…逃げては居ないみたいですけど…」 ミソラが神殿を見上げながら言う。 「入ってみなくてはわかりませんね…当初の予定通り行動します。中に入ったら、小隊単位に別れ探索します。敵を見つけた場合は可能な限り捕縛を。困難な様でしたら、その場の対応に任せます」 何やら胸騒ぎがするが、よもやここまで来て引くわけにも行かない。 「それでは…進軍!」 声とともに神殿内へ侵入していく人の群れ。 「シャノンちゃん、気をつけてね」 「はい。ミソラさんも」 軽く言葉をかわし2人も中へ入っていった。 「…これは」 中に入ると、身なりから盗賊と思われる男たちの屍がそこらに転がっていた。 それを見分しながら進むミソラ。 「これは…切り傷、ですね。それも、相当な腕の持ち主…」 自らも剣に生きるものとして、切り口を見ればどれほどの腕前なのかは想像がつく。 これは、今まで見た中でもトップクラスのものだった。 「ミソラさん、この死体どうしましょうか」 ミソラと共に来ていた兵士が死体を見下ろしながら問う。 「可哀想ですけど、ひとまずこのままで…帰る時に連れて、後で葬ってあげましょう」 「わかりました」 「では先に進みま……っ?!」 それをかわせたのは、ほぼ運と言っても良かった。 「まだ残っていたのねっ」 吐き捨てるように言いながら、ミソラに斬りかかる襲撃者。 長く伸びた黒髪を宙に舞わせながら、手には長剣を持ち流れるような動きで次々と剣戟を繰り出してくる。 「え、ちょ、ちょっと待って、くださいっ?!」 混乱しながらも、培ってきた経験が肉体を動かしていた。 腰に携えた六剣を壁や床に突き立て、相手の動きを阻害しながら立ちまわる。 「面白い剣技を使うわね…でも、この程度じゃあたしは止められないよっ!」 あろうことか、自らの動きを阻害する剣を踏み台にして飛び上がる。 「その動きは、読んでいます…っ」 しかし、その跳躍に合わせて次の剣を突き立て自らも剣を振るうミソラ。 「…甘いっ!」 武器を落とそうと狙うミソラの剣を、身をひねりすり抜けつつ、吹きすさぶ風の如く連撃を放ってきた。 「わ、わ…っ」 これはさすがのミソラも、防戦一方だった。 かつて槍を持ち6連撃を得意とした英雄との戦いがなければ、対応しきれていなかったかもしれない。 最後の一撃を弾いた所で、互いに距離を取る。 「…あたしの流星剣を受けきるなんてやるじゃない」 隙のない構えで剣を構えつつ、微笑む。 「貴女、名前は?」 「あ、えっと、ミソラ・セブンソードと言います…」 何となく流れに乗せられて、素直に名乗ってしまった。 「聞いたことのない名前ね…それほどの腕と、7つも剣を使うなんて、名が知れててもおかしくないのに」 「あの…貴女は」 やや躊躇いがちに聞く。 しかし、相手は幼さの残る顔で微笑み、言った。 「あたしは…ラクチェ。イザーク王国の…王妃よ」