戦乙女の軌跡 第二章『砂漠に舞う』 「ミソラさんっ!」 その光景を見た瞬間、背から剣を抜きつつ駈け出した。 その声に反応してラクチェが距離を取る。挟撃を避けての事だ。 「まだこんなに居たのね…勘が鈍ったか……な?」 そして肩越しにシャノンを見た瞬間、目を見開いた。 「え、あれ…ティルフィング? って、こっちも光ってるしっ」 シャノンを見たりティルフィングを見たり自らの手元を見たり、忙しない。 「あっあのっシャノンちゃんっ!この人ラクチェさんで、イザークの、王妃様でっ」 その間にミソラが息も絶え絶えに叫ぶ。延々と続いた輪舞曲でさすがに体力の消耗が激しかったようだ。 「えっ……えぇ、と…」 その場に居た全員が動きを止めた。 「シャノン?!え。何で?!」 否。一人だけ挙動不審な王妃が居た。 同じ頃、神殿内の別の場所ではユーマとヘーニルが盗賊と遭遇していた。 正確には既に倒した後だが。 「え、まじで?お前が頭領?」 言われてみれば他の盗賊とは身なりが違って見えなくもない。 当てもなくしらみつぶしに部屋を覗いていたら、突然物陰から襲い掛かられたので、受けて返したら、現在の状況が生まれた。 「………」 当の頭領と言えば、受けた傷が痛むのかプライドが完全に折れてしまったか、黙りこくっている。 ちなみに、周りの盗賊が頭領と呼んだので、ユーマはそれを理解した。 「んー…まあ、こんなもんなの、か?」 立ち上がりヘーニルに向かう。 「私に聞かれましても」 全くである。 「まあ…とりあえず縛って連れてくか……あ、立てるか?」 「えぇと…傷、痛みます?大丈夫ですか?」 あまりに拍子抜け過ぎて、逆に盗賊の心配をしてしまう二人であった。 「いやーははは、そうならそうと言ってくれればいいのにっ」 とても清々しい笑顔でミソラの肩を叩くラクチェ。 対するミソラは返す言葉も無く、ただ力なく苦笑するのみだった。 「え、と…それでラクチェ様は何故このような所へ?」 「ラクチェでいいよ。何だかこれから忙しくなりそうだからさ。念には念をと思って、この…」 言いつつ手にした曲刀を見やる。 「…神剣バルムンクを、持っておこうとね。こんなの持ち出さなくて済むんなら、その方が良いんだけどね」 気のせいか、やや自嘲が混じっていた気もする。 だがあえて突っ込みはせずに話を続ける。 「イザークは、どうするおつもりなのですか?」 「シャナンは今の状況が明らかにおかしいって言って、中央の情報を集めてたけど…正直きな臭いものしか出なくてね。直接行くのもイザークの王としては如何なものかって感じで。正直身動きが取れない感じかな」 肩をすくめて。 「まあだから、身軽に動ける私がちょっと探りいれてみようかなと思って」 王妃が身軽に動いたらダメだろうとその場の全員が思ったが、あえて触れなかった。 「え…もしかして、単身でですか…?」 ようやく息を整えたミソラが問うた。 「うん」 ひどくあっさりしていた。 「え、いえ、さすがに一人は危険ですよ…っ?!」 「いやー顔隠せば大体イケるんじゃないかな…とか。いざとなったら、ほら、私の強ささっき見たでしょ?」 「いえ、その、見ましたけど…っ」 「あ、あのっ。さすがに、一度戻られたほうが宜しいのでは」 見かねたシャノンが割って入る。 「んー。シャナンにはもう了解取ってるから別に必要はないのよね…んー…」 こんな王妃が居て良いのかと全員が思う中、何かを考えだす。 「お、こんな所に居たのか」 そこへ、縄で縛り上げた盗賊を連れたユーマとヘーニルがやってきた。 「ユーマさん。そちらは…」 「ああ、頭領だってさ。他も片付いたみたいだし、これで終わりかな?」 「そうですね。皆さん、ありがとうございます」 一同を見回し頭を下げる。 その後ろから頭領が声をあげた。 「あってめぇ!こいつらの仲間だったのか!」 「ん?まぁ、結果的にはそうなるかな?」 「くそっ…あいつら適当言いやがって…っ」 悪態をつく頭領に、エルムが近づいていった。 「あいつらって、誰?何を言われたの?」 知る者が見れば、背筋に冷たいものが走るほどの、優しげな笑顔だった。 「あ…あぁ…この先のダーナ城に居る奴らだよ…革命軍は纏まった動きも出来ないから、今ならイザーク領内入っても手出しはされねーって。あんま奥行くとイザーク王国軍出てくるから、深くは入れねーけどな」 さすがに何かを感じ取ったのか、顔を青ざめながら震える声で言う。 それを見てさらに笑みを深めながら膝立ちの姿勢でさらに続ける。 「この先…ってことは、グランベル王国軍と繋がってるの?」 「別に繋がってる訳じゃねぇよ…ただまぁ、手は出さないから代わりに奪ったもんいくらか分けろってぇくらいで…」 そこまで聴いた所で立ち上がりシャノンの方へ向き直る。 「まぁ、どこも末端までは目が届かないものよね。あるいは見て見ぬふりなのかもしれないけれど」 「ですが、レスターさんが不在のまま軍を進めるのもなんですし…」 「レスター居ないの?」 そこへラクチェが入ってきた。 「シャナン様の所へお話をしに行っております」 「ふぅん…まぁ、うちが動くには良いきっかけかもね」 うち、というのは当然イザーク王国の事だ。 「…うん。じゃ、まあとりあえず革命軍にお世話になろうかな」 「え…ですが、それは問題があるのでは…一国の王妃が革命軍に参加というのは」 「言わなきゃわからないでしょ」 ああ、この人にはきっと何を言っても無駄だと、シャノンは思った。 「…まあ、ひとまず城に戻りましょうか。村の人達も安心させてあげませんと」 「そうですね。元々の目的はそれですし」 ミソラと視線を交わし微笑む。 そこへ、新たな足音が響いた。 「シャノンちゃんっ」 外で見張りをしているはずのスワローだった。 「スワローさん?どうしました?」 「今伝令の人が来て…この先のダーナ城から敵が攻めてきたって…!」