戦乙女の軌跡 第二章『砂漠に舞う』 砂煙と共に兵士の群れが吹き飛んだ。 「行きますよ!敵陣を崩します! …全軍、突撃!!」 シャノンの号令と共に群れをなして襲い掛かる盗賊退治組。 多数のミソサが砂煙を上げた、敵陣の丁度真ん中あたりを狙い突撃していく。 「ふむ。こちらの意図を理解してくれているようですね」 双眼鏡を覗いたままの姿勢でユーギが言う。 「さて、ナツキさん。出番ですよ」 それは、 「今から敵陣が2分されますから。こちらの部隊に近い方を退治組と協力して包囲殲滅します。その間、残りの敵軍を抑えて下さい」 お使いでも頼むかのように、軽く言葉を発する。 しかしそれは"出来る"というのを理解しての事であり、ナツキも、 「承知しました。 では皆さん、参りましょう」 それを当然の事と受け取り、行動を開始した。 「あ、シャノンち来た来た… …あれ?」 次の矢を探して腰の矢筒に手を伸ばしながら、プチ・ララがふと気づいた。 「ララ?どうしました?」 懸命に旗を支えるプラニエが問う。 「うん、何人か足りない…気がする」 平手を額に当て遠くを眺める姿勢で、退治組を眺める。 「あー…うん。ミソラちゃんとアニエスと…黒木社が居ない」 それと同じ頃。 盗賊が根城にしていた神殿から、戦場とは反対側に位置するダーナ城。 絶壁と言うほどではないが、切り立った崖の上にそびえる、その崖の端に数十人の兵士が居た。 「思った通りね。こっちの人数が少ないのと前回の戦闘から、殆ど総出で向かったみたいね」 その集団の先頭に立ち、自らを抱くように腕を組みながらエルムが微笑んだ。 「いい読みしてるわね。確かに…最低限の守備隊しか居ないみたいね…これなら…」 ラクチェが腰に携えていたバルムンクを引き抜き、前へと歩き出す。 「あ、ラクチェさんっ。そんな真っ直ぐ…っ」 慌ててミソラが止めに入るのを、歩は止めずに軽く振り向き、 「どうせこの立地だとバレずになんて無理なんだし。ぱぱっと終わらしちゃいましょう」 軽くスルーした。 「あ、えぇと…」 困ったようにミソラがエルムを見る。 「困った王妃様ねぇ。でもまぁ、変に時間を掛け過ぎてもこっちは少人数なんだし、一理はあるわね」 全く困ってる風に見えない微笑みで兵士の方を向いた。 「それじゃ、無茶な王妃様を一人で行かせるわけにもいかないからね。私達も行きましょうか」 皆一様に頷き、ラクチェの後を追った。 エルムだけは悠然と歩いていたが。 「本当に総出って感じね。最低限どころか、殆ど人居ないじゃない。なってないわねー」 ものの1時間も掛からずに大体の制圧を終えた。 物足りな気に剣を担ぐラクチェに、ミソラが寄ってきた。 「その分シャノンちゃん達が心配ですね」 「まぁ向こうは向こうに任せましょ。とりあえず仕上げに城の中を見て回りましょ?」 言い終わるや否や、手をひらひらさせながら通路を進みゆく王妃。 「そうね。いくらかの人数ごとに別れて城内を探索しましょうか」 「ここは…倉庫みたいですね」 木箱やら麻袋が積み上げられた室内を眺める。 手近な木箱を開けると食料が収められていた。 「これだけあれば、随分と助かるわね」 こちらも同じようにエルムが見分していた。 「でも何だか申し訳ない気持ちになります…っ」 そんなエルムの後ろに付いて行きつつ、アニエスが周囲を見回していた。 「戦争なんてそんなものよ。勝者が全てを手にする、ってね」 「確かにそうですが―――っ!」 確かに聞こえた。 室内のどこからか、殺気を伴い発せられた金属音。 その正体を掴もうと剣を抜き慎重に部屋の奥へと進むミソラ。 そこへ、 「その余分な脂肪削りとってやるネ―――!!」 突如頭上から猫が飛び出してきた。 その頃、ラクチェは城の最上階へとその身を置いていた。 先には演説などに用いられるテラスがあった。 「まー綺麗に居なくなった…と、思ったんだけどね」 その視線の先には、 「…貴女が、敵ね」 テラスで風にスカートをはためかせ、ヤクートヘッドと呼ばれる異世界のヘッドセットを頭上に戴き、両剣を手にした戦士が居た。 「…まだ、こんな美味しそうなのが残ってたなんてね」 頬の筋肉が緩むのもそのままに、剣を構える。 「…覚悟」 言葉も少なく、両剣を一度振り真っ直ぐに突っ込んできた。