第二章『砂漠に舞う』 「か、かなたさんっ?!」 突如荷箱の影から飛び出した影に、反射的に剣を構えつつ叫んだ。 「ようやく見つけたネ!」 言いつつ手に構えた二丁拳銃を乱射するかなた。 位置を変え、かわし、弾き、その猛攻を何とか凌ぐミソラ。 「もげろ!!!」 「まっ、ちょっと、待って下さいっ?!」 台詞さえ無ければ、見ているものを魅了するだけの立ち回りだったのだが。 「何やってるの」 エルムがかなたの襟首を掴み持ち上げ、あっさりと幕引きとなった。 「いえー、何だか楽しそうですしシャノンちゃんのお手伝いでもしようかと思ったんですけど」 「ミソラさんの姿を見かけた途端……」 荷箱の影からさらに出てくる2人。ささらとつむぎだった。 「えっと、あの…仲良く、しましょ…っ?」 剣を収め笑顔を浮かべるミソラ。 対し、 「シャーッ!!」 エルムに掴まれながら全力で威嚇するかなた。 「……先が思いやられるわね」 軽い溜息とともに言葉は流れていった。 「それにしても、いっぱい増えましたねっ♪」 手が出せず成り行きを見守っていたアニエスが、エルムの後ろから出てくる。 「あら、確かホワイトさんたちも来てましたよー?」 ささらが頬に手を当てて言う。 「それじゃ今頃向こうと合流してる頃かしらね」 「いえ、このお城に」 「………あー」 何かを察し苦笑いになるエルム。 「…じゃー早く合流しましょうか」 「はいっ♪」 思いがけず人数が増えた一行は部屋を後にした。 「いい加減離すネ!!」 その頃テラスでは、激しい剣舞が披露されていた。 「その武器もそうだけど、中々面白い動きするじゃない!」 「…貴女もね」 ラクチェが逆袈裟に振るうと、両剣でいなすと同時にもう片方の刃で斬りかかる。 それを身体を回転させかわし、上段から斬りかかるのを半身をずらしかわす。 一呼吸の間に幾合も打ち鳴らし、火花を散らしながら立ちまわる。 永遠に続くかと思われた舞踏は、一際大きな音と共に打ち合わせた刃と共に互いが距離を取ることで終了した。 「たまらないわね……これほどの使い手に、この短期間で何人にも逢えるなんて」 「…そんなに早く動ける人は、あまり見たことがないわ…」 さすがに息遣いも荒く汗が滴っていたが、その双眸に宿った光には一点の曇りもなかった。 「…余り時間を掛けても何ですし、手伝いましょうか」 そこへ、柱の影にでも隠れていたのか、新たな両剣使いが現れた。 「…ベリテちゃんは下がってて。この人は、私がやる……レッド、アーティ。お願い」 「お前も何だかんだ言って好きだよな……」 「真面目なんですよー」 そしてさらに出てくる2人。 「気配は感じていたけど…これは、本当に楽しめそうね」 相手の数が増えたというのに、瞳の輝きをさらに増すラクチェ。 剣を構え直し、息を整え、相手をしかと見つめる。 しばしの沈黙の後、その静寂を破るように声が響き渡った。 「あれっ、ベリテちゃんも来てたんだっ♪」 アニエスが満面の笑みを浮かべ、その場の空気もものともせずベリテに駆け寄った。 「………アニエスさん? …あれ?」 抱きしめられながら、何故か不思議そうな顔をする。 「アニエスちゃん…何でここに」 闘争のただ中に居たホワイトすらも、驚いた様子でそれを見ている。 「……んん?」 昂っていた戦意の行き先を失ったラクチェは、その構えのまま怪訝な表情を浮かべた。 「大体予想通りね」 そこへ残りの面々も現れた。 「何でって……んぅ?」 「貴方達…敵に捕らわれていたんじゃ…」 「シャノンさんもアクサラさんも、ひどい目にあわされてるって…」 「ん?んぅ?何の話?」 何の話をしているのか全くわからず、しきりに首をかしげる。 「…大方、この城の連中に"シャノンちゃん達は敵に捕まっていて今にも殺されそう”だとか言われたんでしょう」 エルムがそう言うと、 「だ、だから怪しいって言ったんだ」 レッドが頬を染めながらそっぽを向き、 「ぷふっ…一番反応してたのレッドさんですよねぇ」 アーティがたまらず口元を抑えた。 「えぇ…と……」 訳が分からず呆けていたホワイトの肩に、エルムが手を乗せた。 「相手が逆って事よ……可愛いわねぇ本当に」 言われ、顔を真っ赤に染める。 「そういえば、白社長さんたちはどこに出ましたかー?」 何か思案顔だったささらが口を開いた。 「ん?私はアニエスちゃんの居る所に直接だけど…他のメンバーは、多分シャノンちゃんたちが居た城の近くじゃないかしら」 「なるほどー。そうすると、少し困ったことになったかもですねー」 全く困った風には見えないが。 「実は、私達の他にも居たんですけど、こっちの世界に来たら姿が見えなくて。恐らく、違う場所に出ちゃったんじゃないかなー、って」 「あー…座標の指定なんて普通は出来ないだろうしねぇ。というか案外危ないわね、黄金の門…」 「すると、他の部隊の人達がこの先出てくるかも……ですっ?」 「どういう状況になるかはわからないけどね…」 ホワイト達をちらりと見ながら言う。 その視線を受けて、それぞれ目をそらし、アーティだけが笑っていた。 「はいはい。とにかく、この城の制圧はおしまいね。最低限の兵員だけ残して戻りましょう」 手を鳴らしつつ、来た道を戻り始める。 「はぁぁ………私、こんなんばっかりね」 深い溜息をつきつつ歩くラクチェにミソラが寄り、 「ま、また機会はありますよっ」 懸命に笑顔を作り励ましていた。 そんなラクチェを見やり、かなたが一言呟いた。 「……あいつも敵か…」