戦乙女の軌跡 第2章『砂漠に舞う』 「ひとまずここまでは順調…ですね」 ガネーシャ城での防衛戦の後、近隣の城を3つ攻め落とし足場を固めた革命軍。 英雄達の力をまざまざと見せつけられた王国軍は、戦力が減少したのもあったが、それ以上に戦意を喪失していた。 故に、革命軍の被害はゼロに等しく、士気は否が応にも上がっていた。 「ところで…一つ質問なのですが」 夕食をとっている席で、シャノンが横に座ったレスターに声をかける。 「どうした?」 「ずっと気になっていたのですが…ここは、グランベル王国ではなくイザーク王国ですよね」 大陸の中央にあるグランベル王国を囲むように存在する周辺諸国。北東に広がる砂漠を超えた先にイザーク王国はあった。 12聖騎士の一人、剣聖オードの血脈を受け継ぐイザーク王家が統べる国だった。 しかし、各地の部族の影響力も大きく、統一しているとは言いがたかった。 余談だが、故にイザーク王国は"東方の蛮土"とも呼ばれていた。 「そうだな」 「なのに、王国軍が堂々と国境を越えても…何も言われないものでしょうか」 通常であればそんな訳はない。何も言わずに国境を越えるというのは、宣戦布告に等しい。 「お前も知ってるだろうが…この辺は特に各部族の影響が強い地域でな。城も立ってはいるが、半分以上が周辺の村からの募兵で構成されているんだ…後は何となくわかるか?」 「王家の力がそこまで強くない…?」 「と、言うよりも。変に事を荒立てるよりも、その地を知っている者に任せたほうが上手くいく…って感じかな」 「なるほど…」 地の利を活かして戦えるのはかなり大きい。 レスターの言葉に納得と、イザーク国王の器の大きさに感服をした。 「それで…これからどうするんですか?」 「ひとまずの身の安全は確保したからな…ちょっとイザーク王に会ってこようと思う。何かしら協力を仰げれば、ってな」 「イザーク王…オードの血脈、剣聖シャナン様ですね」 シャノンの父セリスと共に戦い、見るものを魅了する美しく流れるような剣技から剣聖と呼ばれたシャナン。 元々イザーク王家の血を引く王子で、戦いの後イザークの国王として即位した。 「あいつがどこまで知ってるかは分からないが…話せば必ず力になってくれるだろう。 …で、だ」 「ん…っ。はい」 口に含んでいたパンを慌てて飲み込み返事をする。 「俺は一部隊だけ連れて行くから…残った連中と一緒に、ここを守っててくれるか」 「わかりました…ですが、一部隊だけで大丈夫ですか?」 「ガネーシャから先には王国軍は居ないからな。大丈夫だ」 食べ終わった食器を手に立ち上がるレスター。 「数日で戻れるとは思うが、その間何か起こった場合の判断は任せる。ただ、無茶だけはしてくれるな。お前の身に何かあったら、エクスやスカサハに合わせる顔がない」 顔では笑いながら言うが、言葉に乗せた思いは真面目そのものだった。 「わかっています。大勢の身を預かる立場になってしまいましたから…誰か様のせいで」 最後の部分は、少し意地の悪い笑いを添えてみた。 「ははっ、それを言われると何も言えんな。さっさと退散して出発の準備をするとしよう」 そう言って背を向ける。 翌日。中庭でミソラと戦闘訓練をしている所に兵の一人が駆け寄ってきた。 「あの、シャノンさん…いいですか?」 「あ、はい…何ですか?」 剣を振るう手を止めて兵士に向き直る。 「近くの村の代表という者が話をしたいと…」 「えっと…はい、わかりました」 レスター不在の時にと思ったが、今革命軍を率いているのは自分だというのを思い出した。 案内された部屋に行くと、やや疲れた表情の青年が居た。 ちなみに、シャノンの願いでミソラも一緒に付いてきていた。 「こんにちは…私が革命軍の代表をさせて頂いているシャノンです」 「…あ、ど、どうも…」 シャノンの姿を見て、素直に驚きの表情を浮かべたものの、緊張からからすぐに真面目な表情に戻った。 「えぇ、と…ご用件はなんでしょう?」 こちらもこちらで、軍のトップなど初めての経験なので、改めてこういう場になるとやや緊張していた。 「あの…最近、うちの村が盗賊に襲われるようになって…出来たら、助けて頂きたくて…」 如何に15歳の少女が相手とはいえ、武具を纏った相手を目の前にするなど普段は無いのが当たり前だ。 青年はシャノンの背やミソラの腰に携えられた剣に視線を飛ばしながら、恐る恐る言葉を紡いでいた。 「盗賊…こんな時に、そのような非道を働くなど…」 しかしシャノンはそんな視線には気づかずに、盗賊に対する怒りで一杯だった。 「人の助けとなるならば、革命軍としては本望です…王国軍の動きはどうですか?」 近くに控えていた兵士に問う。 「西の砂漠を渡る途中にあるダーナ城に部隊が駐屯しているようですが、今の所動きはありません」 兵士も心得ていたようで、即答で返してくれた。 「シャノンちゃん…」 ミソラが声をかける。言いたいことは、わかっているつもりだった。 「そのお話お受け致しましょう…賊は、どこに居るのですか?後、規模はどの程度かわかれば…」 その言葉に初めて笑顔を見せる青年。 「あ、あの、砂漠の入り口あたりにある、古い神殿を根城にしているみたいなんです!人数は、あの、少なくとも20人くらいは居たと思うんですけど…」 「わかりました。後は任せて村に戻っていて下さい…この方に、護衛を2.3人つけてあげて下さい」 「はい。こちらへどうぞ」 兵士に促され、何度も頭を下げながら退室する青年。 それを見送り立ち上がる。 「ミソラさん…手伝ってくれますか…?」 「はいっ…勿論ですよ♪」 「ありがとうございます…でも、全員で行くわけにも行きませんし…部隊の編成を考えないとですね」 「神殿だと、屋内戦になるかもですから…範囲魔法さんだと動きにくいかもですね」 などと話しつつ、仲間の元へ向かって行った。 「それでは、こちらの守りは任されましょう」 話を聞いてユーギが口を開いた。 「部隊…というか、組織を纏めるのなら、ユーギさんが適任かと想いますので…お願いします」 丁寧に一礼をする。 「まぁ、兵士の皆さんもナツキさんの訓練が結構気に入っている様子ですし…宜しいのではないかと」 こちらの世界には存在していなかった新たな格闘術に、兵士達は興味津々だった。 ナツキも教官という立場に結構ハマリ役のようで、時間を見つけては兵士の訓練に赴いていた。 「それでは、兵士の方々を3部隊ほどと……フェザー…私とアクサラとアニエス。それに、ててこ部隊、TRPG部隊と…」 つい、自部隊を傭兵団の名で呼ぼうとしたが、既に抜けていた事を思いだし少し切ない気持ちになった。 「…あと、エルムさん達も…宜しいでしょうか?」 エルムの性格を考えて、やや控えめにお願いしてみる。 「ん?んー……いいわよ」 少し考えてから、アニエスに視線をやり、頷いた。 「盗賊なんて野卑た連中の所に行って、アニーちゃんに何かあっても嫌だしね」 「はわ…わ、私ですか…っ」 突然の名指しに赤面するアニエス。 「ありがとうございます…では、残りの方々はすみません…城の守りをお願いします」 言葉を受けて全員が頷き、お開きとなった。