『その囀りと共に』 著:かなみ 「アルヘナちゃん、こっちこっちー♪」 イズレーンの中央部にある商店街。その入口付近でサイドテールを揺らしながら手を振っている少女が居た。 コトリだ。 「あ…っと。お待たせ、コトリ!」 平日の昼間ということで、人出の多い中をかき分けながらアルヘナが現れた。 「んーん、さっき来たばっかりだから大丈夫ー♪」 「そう、なら良かったわ」 二人共いつもの戦闘服ではなく、私服の姿だった。 手にしているものも、武器ではなくおでかけ用のバッグ。 「それじゃ行きましょうかっ」 「そうね」 「お買い物ー♪」 そう、今日は訓練等ではなく、純粋に買い物に来たのだった。 事の始まりは、以前二人で花壇を作った日の夜。 一緒にお風呂に入っている時の会話から始まった。 「それにしても、可愛い花壇できてよかったねー」 「そ、そうね。苦労した甲斐があったわ」 何故か顔を赤らめているアルヘナをよそに、コトリはややはしゃいでいた。 「ね、ね。あとテーブルとか置くんだよね?」 「そうね…花を見ながらお茶とかしたいものね」 「じゃあ今度は置くものを見に行こうっ♪」 「えっいいの?!」 「折角花壇作ったんだもん。最後まで一緒にやろうっ♪」 「最後まで…………うん、ありがとうっ」 そんな、他愛のない約束。 しかし、大切な約束。 「……ふふ」 「ん?どうしたの?」 「ううん、なんでもないわ。 さ、目当てのお店へ急ぎましょうっ」 アルヘナが細やかな幸せを胸の内に感じている中、コトリはいつも通りだった。 「…どんなのがいいかなぁ」 「そうね……やっぱり、白かしらね…」 目当ての家具屋を物色しながら、花壇の完成図を思い浮かべる二人。 「やっぱり、白のほうがそれっぽいよね。アルヘナちゃんお嬢様って感じで、優雅に紅茶とか飲んでると似合いそう♪」 実の所、コトリはアルヘナが本当にお嬢様ということは知らない。あくまでイメージでの台詞だった。 「ふぇっ?! そ、そうかしら……じゃ、じゃあやっぱり白にしましょう」 だがそんな事は関係なく、コトリにそう言われたことで動揺を隠せなかったアルヘナ。 (コトリのこういう所はやっぱり反則ね…) 自分でも頬が紅潮しているのがわかるほどであった。 気恥ずかしさから、それを悟られないように店員の方へと歩いて行く。 「あ、あそこのテーブルセットを頂戴」 「ありがとうございます。お持ち帰りは如何なさいますか?」 「………」 言われてはたと気づく。 「そういえば、持って帰ること考えてなかったねぇ」 横でコトリが困ったように眉尻を下げ指を口に当てている。 そんな姿もまた可愛いなどと思いつつ即座に頭を振るアルヘナ。 「そうね…コロナでも居たら楽なんだけど…」 「呼んだ?」 「わっ! コ、コロナっ?! あんたなんでこんな所にっ?!」 手に買い物袋を下げ、もう片方の手に食べかけの肉まんを持った赤髪の少女が、口をもぐもぐさせながら入ってきた。 「んー?ルナに買い出し頼まれて。 あ、コトリやっほー」 「コロナちゃんやっほー♪ 買い出しおつかれさまー♪」 言いつつ手をひらひらさせるコトリ。 そんな姿もまた可愛いなどと思いつつ即座に頭を振るアルヘナ。 「何にせよ、丁度良い所に来たわ。ちょっと手伝ってくれない?」 「ん?何?」 「このテーブルとイスを持って帰りたいんだけど…」 「ああ、何。あの花壇の所に置くの? へー、ふーん」 テーブルとアルヘナとコトリを順に眺め意味ありげに微笑む。 「なっ…何よ」 よくわからずも再び頬が紅潮するのを感じた。 「べっつにー。 うん、じゃあこっちの袋持って」 手にした袋をアルヘナとコトリに渡し、掛け声一つ、椅子ごとテーブルを抱え上げた。 「コロナちゃんありがとうねっ♪」 「いいよーこれくらい」 「うん。いい感じね」 花壇の真ん中にテーブルとイスを配置し、テーブルの上には鉢に入れた花をひとつ。 「かわいー♪」 満足気な笑みを浮かべるアルヘナの横で、元気に飛び跳ねるコトリ。 そんな姿もまた可愛いなどと思いつつ即座に頭を振るアルヘナ。 「ねぇねぇ、早速お茶にしないっ?」 興奮冷めやらずと言った感じで、アルヘナの手を握り目を輝かせている。 「そっ…そうね。折角だしそうしましょうかっ!」 「…おや。これはまた可愛らしい」 「おー、実際に置くと結構違うねー」 そこへ図ったかのように現れるコロナとルナ。実際図っていたのだが。 その手には紅茶のセットとカゴに入れたお菓子があった。 「あ、おいしそー♪」 「少々新しい材料を試してみたので、感想を聞かせて下さいね」 軽く微笑んでテーブルにカゴを置く。 「ねぇねぇルナ。これってもしかして…」 早速ひとつつまみながら覗き込むコロナ。 「…変なことを言っていると、また夕食抜きにしますよ」 対し、やや赤面しつつも目を伏せ平然とした口調で返すルナ。 「あはは、みんな仲良いねぇ♪ まるで姉妹みたい♪」 そんな様子を眺めていたコトリが満面の笑みで言う。 逆にそんなコトリを眺めていたアルヘナが、ツインテールを手で払いつつ、 「コ、コトリもいつでもここにお茶しにきていいんだからね。 その…私達の"妹"みたいなものなんだから」 今日一番の頬の紅潮を感じていた。 「えへへー♪ それじゃあ、アルヘナお姉ちゃんだ♪」 その後、アルヘナがコロナとルナに散々からかわれたのは言うまでもない。