〜その素敵な贈り物に心ばかりの感謝を~ 著:かなみ 「それにしても、このお家凄いですよねぇ」 木製の椅子に腰掛けつつ、興味深そうに部屋の中を見回すコトリ。 「そうかな?間に合わせみたいなものだから、そんな大層なものじゃないよ」 手にしたカップに茶を注ぎながら、メイチェルが微笑む。 マッカのとあるオアシスにあるULS部隊の本拠。 見た目が簡易住宅のそれなので、本拠と呼ぶにはやや抵抗が無くはないが。 そこへ別段用事などは無かったのだが、遠征で近くまで来たので挨拶がてら立ち寄っていた。 「え、でも、シャワーとかもついてますし、間に合わせって言う割に居住性というか、居心地良いですし…」 「まあ、実際に住む所だからねー。それなりに気を使ってる所は多いかも」 コトリに茶を差し出し、棚に置いてあった菓子をテーブルに並べる。 それを手に取り口に運びつつ、頬に手を当てるメイチェル。 少し眉尻を下げ、 「まあ勿論、大変な事も多いけどね」 苦笑交じりに呟いた。 「大変なことですか?」 出された茶に礼を言いつつ一口含み、その香りと味を楽しみつつ小首を傾げる。 「広いわけじゃないから物の置き場を工夫したり…あとほら、実くんも男の子だからね。お互いに色々…あるじゃない?」 「あー…でも、男の子と一緒に暮らしたことって無いから想像しにくいですねぇ」 まだ短い人生経験から考えを巡らせるコトリの姿に微笑みつつ、指を立ててやや前のめりになる。 「例えば…ほら、洗濯した下着とかどうする?」 「あ、あぁー!確かにそれは恥ずかしいですね!」 得たり、と言わんばかりに両手を打ち鳴らす。 「それに一応年頃の男の子だしねー。多少なりとも気は使ってるよー?」 「なるほどぉ…」 「まあ、後はやっぱり水周りかなー」 座り直し茶をすすりつつ、外に視線を向ける。 「いくらオアシスに水があるって言っても、本格的な機械とか置くわけにもいかないし」 「あ、そうですよね。その辺はどうしてるんですか?」 「うん、まあちょっと魔法の力でなんとかだよ」 何気なく言った言葉だったが、直後コトリが目を輝かせて食いついた。 「え、え、どうしてるんですか?」 その姿に瞬間きょとんとするが、再び微笑んで、中空へ指を踊らせた。 「理論とか難しいのは置いとくとして…そうだねぇ。水が道を通って、蛇口とか捻ったらちゃんと出てくるようにしてるだけだよ」 実際に蛇口を撚るようなジェスチャーを加えつつ説明する。 「へー…魔法って便利なんですねー」 またもや感心しきりといった様子のコトリに、今度はメイチェルが小首を傾げた。 「うーん…そうでもないかも」 「そうですか?私魔法とか使えないし…他の魔法使いさん達見てても、皆すごいなーって思うんですけど」 「細かく言っちゃうと。魔法を実際に使うにも理論とか組み上げる手間はあるし、タダで使えるわけでもないし、面倒な事は多いんだよ」 さながら家事に疲れた主婦の様に、肩をすくめる。 「なるほどー…やっぱり実際に使う側になってみないと色々わかんないものですねー」 菓子を口に含み茶で湿らせつつ、同じように肩をすくめる。 「あはは、もっと便利な物だと思ってた?」 「正直に言っちゃうと…はい」 えへへ、と少し申し訳無さそうに右手を頭に当てる。 「まあ、見てる分にはそう思っても仕方ないんじゃないかな。実際、結果だけ見ると自然の理とか無視してるようにも見えるし」 「あ、それは聴いたことあります。魔法って言うのは、自然の力を使うんじゃなくて、協力してもらう物だって」 少し得意気に話すコトリを、口に手を当てて笑いながら眺める。 「まあ、全部が全部そうってわけじゃないけどね。中には無理矢理従わせる、っていうのもあるし」 「あ、何かそういうのは物語の悪い人とかが使ってそうですっ」 「あはは、まあそういうのはわかりやすくしてるのかも」 ころころと表情の変わるコトリを楽しそうに眺めるメイチェル。 ふと、エリなんかもこんな風に感情表現が豊かになればまた違った魅力があるのにな、などと益対の無いことを考えつつ。 「メイチェルお姉さんのは、どういうのなんですか?」 「んー、説明しようとするとちょっと難しいかも」 口元に指を当てしばし考えを巡らせ、 「まあ、計算式を解いて答えを出すような感じかな」 出来るだけわかりやすく噛み砕いてみた。 「あーうー、そういうのは正直苦手です…っ」 それを聴いてやや引き気味になるコトリ。読み書きは出来るが、計算などのいわゆる数学的な方面には明るくないのだ。 「得手不得手は誰にでもあるよー。自分に出来ることをやればいいんだよ」 「…何だか魔法って、奇跡みたいな…自然の贈り物みたいですね」 「ふぇ?」 突拍子も無い言葉に、目を丸くするメイチェル。 「あ、や、だってほら、形はなんであれ、自然の力を借りて現象を起こすわけじゃないですか」 言ってから恥ずかしくなったのか、頬を染めつつ手を忙しなく動かしている。 「それって見方を変えたら、自然が私達の為に、ほんの少し手を差し伸べてくれてるって事じゃないですか」 口を動かしつつも、本人も何を言っているのかわからなくなってきたようだ。 目をぐるぐるさせて、そろそろ頭から煙が出てきそうな様子だった。 「だ、だから、その、魔法を使う人って、自然とお友達みたいだなっていうかっ」 一気にまくし立てるその姿が面白かったのか、あはは、と笑いながら、 「そんな風に考えてくれる人が居ることが、自然にとっては一番の贈り物なのかも」 落ち着かせるために、頭を撫でつけた。 「はぅ…」 そろそろ何かが茹で上がりそうな程顔を赤くしたコトリを撫でつつ、メイチェルが口を開いた。 「そうだねぇ。あんまり考えてなかったけど、これからは自然にも感謝していかないとかも、だね」 自分をこんな気持にさせたコトリの心の方がよほど魔法みたいだ、などと思いつつ。 それはあえて口にせず、そっと胸の内にしまっておくことにした。 願わくば。 この純粋な少女が。 それが慕ってくれる自分が。 奇跡のような贈り物に、感謝を捧げ続けられる世界でありますように。