『その心に花束を』 著:かなみ 「おじさん、バニラ下さいなっ」 「あたしはチョコミントかな」 「あいよっ」 とある街の大通りに並ぶ露店でアイスを買うコトリとシオカラ。 特に用事があったわけでも無いのだが、なんとなく二人で出かけようということになり、とりあえず街に出てきた。 「あれ、あんな所に公園なんてあったっけ」 「んー、どうだろ。寄ってみる?」 「うんっ」 その公園は大通りから少し外れた所にあった。 手にしたアイスを落とさないようにのんびり歩きつつ向かう二人。 「んー、ここ気持ち良いねぇ。すこしゆっくりしてかない?」 遊具等がほぼなく、緑に覆われ、遊歩道と随所にベンチが設置してあるのみの公園。 吹き抜ける風が頬を撫でていく。 「いいよー。あ、じゃあ、そこのベンチにしよっか」 「うんっ」 昼前のほんのりとした陽気と、優しく撫でていく風が心地よかった。 「こんな公園あるなんて知らなかったねぇ」 「普段こっちこないからねー…と、コトリついてる」 何気ない仕草で、コトリの頬についたアイスを指ですくい口に運ぶ。 「……」 それに、きょとんとした顔になるコトリ。 「…ん?どうしたの?」 「んー…何か、前に同じような事あったような…って」 「あたしは初めてだったと思うけど。違う人かな?コトリ良くやってそうだし」 「そ、そんなにお子様じゃないよぉ…っ」 頬を膨らませるコトリと、それを見て笑うシオカラ。 「もー……あ、思い出した。確か小さい時一緒に遊んでた子だ」 「へぇ。どんな子だったの?」 「えっとねぇ……」 「えへへー、はい、しぃちゃんあげるー」 「…ありがと、ぴよ」 小さな手に握られた大きなアイス。いや、サイズは普通なのだが、握る手が小さすぎた。 「おいしいねぇー」 「…ん」 満面の笑みを浮かべ舐めるぴよと呼ばれた少女。 対照的に、嬉しいのかほんのり頬を染めてはいるが、ほぼ無表情に食べているしぃちゃんと呼ばれた少女。 「とける、おちるっ」 小さな口で食べるには大きすぎたのか、段々と溶け始めるアイスを必死に舐めとるぴよ。 「…ぴよ、アイスだらけ」 口の周りについたアイスを指で拭い、自らの口に運ぶしぃちゃん。 「えへへ、ありがとー」 「…ん」 「…うん、あんまり笑わない子だったかなぁ。でも、なんとなく感情がわかって、それで十分楽しかったなぁ」 「へー。 …小さい頃、小さい頃かぁ」 コトリの言葉を聞き、遠くへ思いを馳せるように空を見上げるシオカラ。 「シオカラちゃんの小さい頃ってどんなだったの?」 「んー、さして何がってのはないかなぁ…あ、でもあたしも仲の良い子が居たような…?」 「どんな子どんな子ー?」 「えー…確か……」 「お嬢ちゃん、あっちにお菓子いっぱい食べさせてくれる所があるんだ。行かないかい?」 「わ、ほんとー?」 あからさまに怪しい中年の男だったが、それを疑いもせず駆け寄ろうとするぴよ。 「…まった」 それを遮るように、ぴよを背にして男に向き合うしぃちゃん。 「な、なんだいお嬢ちゃん。一緒に…」 「どしたのー?」 後ろで首を傾げるぴよを、小さな背中で精一杯隠しながら、男にむき出しの敵意をぶつける。 「…こっちくんな。さわんな。あっちいけ」 「……ちっ」 その様子に気圧されたのか、男は去っていった。 「しぃちゃんどうしたの?」 「…ん。なんでもない」 「…何か、危なっかしい子だったなぁ。素直っていうか」 「シオカラちゃんが守ってあげてたんだね」 「んー、守るとかそういう次元の話じゃなかった感じもするけど…」 食べ終わったアイスの包み紙を丸めつつ、眉根を寄せる。 「ああ、うん。コトリっぽかったかな」 「え、それどういう意味っ?!」 「そのまんまー」 にひひ、と笑うシオカラ。 「わ、私そんなに危なっかしくないもんっ …でも、仲が良かったんだねぇ」 「そうだねー。何かにつけて一緒に遊んでた気がするなぁ」 「私達も、そんな風になれるといいねっ」 えへへ、と笑うコトリ。 「もー十分仲良いと思うけど…もっと、深い仲になりたい…?」 意味ありげな表情と声色で、やや顔を近づける。 「そうだねぇ。もっともっと仲良くなれたらいいなっ」 それに、屈託の無い笑顔で応えるコトリ。 その表情に呆気にとられ、毒気を抜かれたように座り直す。 「やっぱりコトリはちょっと危なっかしいかなー」 「そ、そんなことないよっ?!」 「大丈夫、あたしが守ってあげる」 そう言ってコトリの頭をくしゃくしゃと撫で回す。 「わっ…も、もーっ!子供扱いしてーっ」 「あははっ」 顔を真赤にして腕を振り回すコトリと、笑いながらそれから逃げるシオカラ。 「しぃちゃんまってー」 「…ぴよ、こっち」 「シオカラちゃん、待てーっ」 「あはは、コトリこっちこっちー」 頬を撫でる風が心地よく、緑のざわめきが囁く。 その中を駆ける二人は、あの頃となんら変わらなかった。