『ちいさなえいゆうのものがたり』 プロローグ 刻碑歴999年。 選りすぐりの英雄を筆頭に、各陣営がそれぞれに戦をしかける一大イベントが行われていた。 それは、各陣営の思惑と、戦に参加する全ての傭兵の想いが交差する、"その巡り"最大の催しであった。 戦場では大部隊同士の激突が。首都では早くも戦勝パーティの準備が。 そして、新たな巡りへの予兆が。 大陸全土が新たな歴史を刻むべく動いている中、オーラム共和王国の王都アティルトのほど近くにある世界最大の遺跡、"黄金の聖域"に幾人かの姿があった。 「えへへ、わざわざ見送りありがとうねぇ」 人懐こい笑みを浮かべながら、集まった全員に向けてコトリが笑顔を振りまいている。 「いいっていいって。すぐ戻ってくるの?」 応じて笑顔になるシオカラ。 他にも、ルーカやファティエ、それにぴたりとくっついているチマキ、シオカラやユストにアリシアなどなど。 コトリが今までに出会い、縁を深めた人たちが一同に介していた。 「具体的な目的があるわけじゃないから…それぞれの世界を見て回って、戻ってきて、また…みたいな?」 指をくるくる回しながら説明する。 「本当は、シオカラちゃんも一緒に行けたら良かったんだけどね」 「まあ、ユカリも居るからねー。元の世界に戻る手伝いするって約束しちゃったし」 「大丈夫っ!その分私がコトリちゃんを守るよっ」 少し申し訳無さそうなシオカラの横から、ユストが飛び出す。 「あははっ、うん、頼んだよ!」 「えへへ、よろしくお願いしまーす」 3人で顔を見合わせ笑い合う。 「コトリ、そろそろ、だよ」 そこへ、ファティエが声をかける。 「コトリちゃん、はいこれ」 その声に合わせるようにエルムが手を差し出す。 「はいっ。これは?」 手渡されたそれは、手のひらに収まるサイズの小さな機械だった。 「どの世界に行っても、ちゃんとこっちに戻ってこれるようにする…そうね、道標みたいなものよ」 具体的には、数多に広がる時空間の枝を見分け、ブリアティルトにある黄金の門を導き出すセンサー装置なのだが、それを説明したところで理解は出来ないだろう。 「これが無いとこっちに戻ってくるのは運次第になっちゃうから、肌身離さず持っていてね」 「はいっ!」 コトリらしい元気な返事と共に、腰に据え付けたポーチにしまい込む。 「それじゃ、皆そろそろ行こうかっ」 「チマキ、気をつけて行くんだよ」 シオカラが、ファティエにくっついているチマキの頭を優しく撫でる。 「…うん。ありがと」 「私達もついてるから」 「ねっ」 撫でられ微笑むチマキ。それを囲むようにアリシア、アニエスがそれぞれに笑顔を携えていた。 「これだけ居たら、手を出したほうが危ないね」 名だたる面々を眺め、シオカラが笑う。 「コトリも気をつけてね」 次いで、門の前で待機しているコトリに手を差し出す。 「うん。シオカラちゃんも頑張って」 握り返し、しばしの間互いに見つめ合う。 そこへ、シオカラの肩に手を載せるツクダニ。 「ん…そうだね」 言わんとする所を汲み取り、コトリに対し頷く。 「…それじゃ、行ってきます!」 やや名残惜しそうに手を離し、大きく手を振りながら門の中へと進み行く。 黄金の門が、その名の通り金色に輝き、進み行くものを導いていった。 「…わっ?」 「…む」 輝きは思いの外強く大きく、門の目の前で見送っていたシオカラとツクダニまでも包んでいった。 「……あら」 輝きが収まった時、その場に残っていたのは、離れた所から見守っていたエルムのみであった。 「……あらあら」